名古屋高等裁判所 平成元年(う)197号 判決
所論は,要するに,原判決は,その(罪となるべき事実)二において,「被告人は,(ほか2名と共謀のうえ)林に対し…中略…暴行を加え,同日午前7時50分ころまでの間,同人を素裸にして同事務所からの脱出を不可能な状態において不法に逮捕監禁し,その際,右暴行により同人に対し全治16日間を要する顔面挫創兼巨大皮下血腫等の傷害を負わせた」旨認定判示する一方,その(法令の適用)の項においては,刑法204条,220条1項を適用して傷害罪及び逮捕監禁罪の成立を認め,両者は一個の行為であるとして刑法54条1項前段を適用しているが,逮捕監禁の手段である暴行によって傷害の結果が生じたとされる本件においては,刑法221条の逮捕監禁致傷罪の一罪に問擬されるべき筋合であるのに,前記適条をした原判決には,認定事実と適用した法令との間に理由のくい違いがあり,かつ,法令の解釈適用を誤った違法があって,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
所論にかんがみ,検討するに,所論主張の逮捕監禁致傷罪は,人の傷害が逮捕監禁の結果として発生したこと,すなわち,人の傷害が逮捕監禁行為そのものによって生ずることを必要とし,少なくとも逮捕監禁行為をなすための,或は逮捕監禁行為を継続するための手段としての暴行行為により傷害の結果が生ずることが要件であって,人を逮捕監禁し,その機会に暴行を加えて傷害を負わせた場合であっても,別個の動機,原因から暴行を加えたものであるときは,逮捕監禁行為と傷害の結果との間には因果関係が存在しないから,逮捕監禁致傷罪は成立せず,傷害罪と監禁罪の二個の犯罪を構成するものと解するのを相当とする(最高裁判所昭和42年12月21日第一小法廷決定,最高裁判所刑事裁判集165号551頁参照)。これを本件についてみるに,原判決書によれば,原判決がその理由中の(罪となるべき事実)二において認定判示しているところは,被告人が原判示共犯者らと共に原判示「くるまやラーメン」店舗内で飲食中に,同店の客である林から,右共犯者の1人がラーメンをかけられたことに憤激し,右共犯者らと共謀のうえ,同店舗前路上で右林の頭部,顔面等をこもごも足蹴にする暴行を加え,更に,右林を原判示森田組事務所内に連れ込み,被告人らにおいて「ヤクザをなめるなよ」,「俺達に対して良い度胸だ」などと怒号して,こもごも右林の頭部,顔面等を手挙で殴打したり,胸部,腹部等を足蹴にするなどの暴行を加え,右暴行により,右林に対し顔面挫創兼巨大皮下血腫等の傷害を負わせた事実と,被告人らが共謀して,右「くるまやラーメン」店舗付近路上から,右林を抱きかかえるようにして駐車中の自動車後部座席に強いて乗車させ,被告人らが同乗して右林を前記森田組事務所内に連れ込み,同所で右林の頭髪を切り落としたり,眉毛を剃るなどの暴行を加え,右林を素裸にして長時間右事務所からの脱出を不可能な状態において不法に逮捕監禁した事実であって,右摘示事実を精読すれば,原判決は,被告人らが右林に対し,逮捕監禁を行うための手段として傷害の結果を生ずるような暴行を加えたとか,逮捕監禁の状態を保持するためにその手段として傷害を負わせるような暴行を加えたとは摘示しておらず,右林に対し傷害を負わせるに至った暴行の動機,原因は,専ら,右林の前記「くるまやラーメン」店舗内での態度に被告人らが憤激し,同人に制裁を加えるためであったことを摘示したものと読み取るのが相当である。そうとすれば,原判決がその(法令の適用)の項で,被告人の右所為について,刑法204条,罰金等臨時措置法3条1項1号,刑法220条1項,60条を適用し,傷害罪と監禁罪の各罪が成立するとしているのは,まことに正当であって,原判決に所論のごとき理由のくい違いは認められず,また,以上適用した法令の限度においては,原判決に法令の解釈適用の誤りも存しない。
更に,所論に従い,原判決の法令の適用の適否について検討するに,原判決書によれば,原判決は,その(法令の適用)の項において,前記適条に引続き,「右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により一罪として重い傷害罪の刑につき定めた懲役刑(但し,短期は逮捕監禁罪のそれによる)で処断することとし」,再犯の加重をした刑期の範囲内において,被告人を懲役2年6月に処していることが明らかである。しかしながら,原判示傷害罪と逮捕監禁罪とは併合罪の関係にあるものと解するのが相当であって(前掲最高裁判所第一小法廷決定参照),この点において,原判決には法令の解釈適用の誤りが存するが,傷害罪につき所定刑中懲役刑を選択し,併合罪の処理をしても,被告人には累犯となる前科があって再犯加重される本件においては(刑法14条の制限内で併合罪加重をすることとなる),結局のところ,被告人に対する処断刑の長期は,原判決の処断刑の長期と同一に帰することとなり,右法令適用の誤りは,未だ判決に影響を及ぼすことが明らかであるとは認められないから,所論は,結局採用することができない。論旨はいずれも理由がない。